設計者上がりの建築コンサルタントブログ

建築コンサルタント、プロジェクトマネージャー、コンストラクションマネージャーの視点

国内建設プロジェクトが直面する課題:ゼネコン選定が困難な時代

仕事を断るゼネコン営業マン

仕事を断るのが仕事となっている現在のゼネコン営業マン(画像生成AIによる作画)

現在の建設プロジェクトは、ゼネコンの選定段階で受注してくれるゼネコンが見つかり難いという大きな課題に直面しています。この記事では、この課題の背景について掘り下げ、建設プロジェクトが直面する課題と対処方法を考えていきたいと思います

ゼネコン選定の難しい時代

建設プロジェクトの初期段階で直面する最大の課題の一つは、計画プロジェクトの施工(状況により設計も含む)を担当してもらうゼネコンを見つけることであると考えられます。今現在、私も建設プロジェクトのプロジェクトマネージャーとして施工者(設計・施工者の場合も有り)選定に関わっている中で、様々な建設プロジェクトでゼネコン選定が大きな壁となっています。ゼネコン(スーパーゼネコンや準大手以下を問わず)およびサブコン(給排水衛生工事、空調工事、電気工事など)が多忙を極める中、彼らは新規プロジェクトの受注に対しては、数多くある案件で受注の順位付けをしている様な状況のため、発注者としてはゼネコンに受注優先度を上げてもらうために、より魅力的な条件を提示する必要があり、そうしない限りは受注意欲を持ってもらえず、請け手ゼネコンが見つからない状況です。そういった背景から、複数のゼネコンに見積書や提案書の提出を求めて競争原理を働かせる様なやり方はほとんど不可能に近いのが現在の状況です。

建設会社の現状と課題:利益率の課題

建設業界は好調な受注と安定した売上高であるにも関わらず、採算性は大きく低下している状態となっています。そういった状況から利益率・採算性を重視した受注方針に舵を切っています。

大手建設会社の経営状況

 

参考元:2. 企業経営 | 建設業の現状 | 日本建設業連合会

サブコン確保の困難な課題

ゼネコンにとってサブコンを確保するのが困難な状況です。想定する工事期間にサブコンが多忙さや人員不足で対応出来なかったり、サブコンが提示する工事金額が予定工事金額に収まらないといった状況によって、ゼネコンとしてはサブコン工事をコントロール仕切れない状況が現実的に起きています。

スーパーゼネコンであっても、サブコンを掴まえることが出来ないため受注を諦める案件や、ゼネコンとしてサブコンをコントロール(コスト面や工期の面)する事が出来ない事から、設備・電気工事を別途工事扱いやコストオンの扱いにしてもらえる様に発注者に掛け合う状況も見受けられます。
サブコン問題はゼネコンの受注計画や採算確保に大きな影響を及ぼしています。

資材高騰による課題

サブコン問題に加えて資材価格の高騰は工事採算の悪化に直結しています。これらの状況は、ゼネコンが新規受注時に受注価格を引き上げる要因となります。さらに、人手不足が進む中で選別受注の傾向が強まっており、新規プロジェクトの発注者は施工者を確保する事が大きな課題となっています。

品質管理・施工管理における課題

一部のゼネコンによる品質管理や施工管理の問題がマスコミ記事等で注目されています。この問題は、無理のある短工期設定や慢性化した人手不足が背景にあるとされています。

問題からの反省として、ゼネコンの中では受注競争に勝つために“挑戦的”な短工期設定による無理のある受注をしてしまうと、結局は現場にしわ寄せがきて品質や安全を毀損するリスクが高まるという意識づけが出来つつある様です。

●品質管理・施工管理に関する国の動き

国土交通省は2023年5月10日、建設業団体に対して「建設工事の品質管理及び施工管理の徹底について」と題する文書を不動産・建設経済局⾧名で通知し、建設会社が発注者に虚偽の報告をしていた事例を踏まえて、不正の防止、工事の品質及び施工管理の徹底を促しました。

・その通知の中では、発注者への虚偽報告を「建設業界に対する国民からの信頼を大きく損なうものであり、あってはならないこと」とし、「業界全体の信頼を揺るがす重大な問題と認識し、再発防止の徹底等に向け全力を挙げて取り組む必要がある」としています。そのうえで、建設業団体に対し、再発防止に向けた適切な指導を求めています。

この様に、品質管理及び施工管理の徹底について、建設業界全体での信頼回復に向けた取り組みが求められています。

建設市場に影響を与える経済・社会の情勢

建設コスト上昇の主な要因には、資材価格の高騰と労務費の上昇があります。リーマンショック後の急激な下落を経て東日本大震災後の震災復興需要により労務費が上昇し、さらに2021年以降の資材価格の高騰が建設コストを押し上げています。現状では資材価格の上昇は沈静化傾向があるものの、2024年問題として知られる働き方改革関連法の適用は、建設業界における工期延長やコスト高に繋がる新たな課題を生んでいます。

(1)物価高の課題(建設コストの高騰)

◆建築工事費の推移

・建築工事費は、2008年のリーマンショック後の急激な下落の後、東日本大震災の震災復興需要などにより2012年以降は上昇し、2015年ごろに一旦ピークに達しました。その後、下がり傾向になりましたが、2017年以降は上昇傾向となり、2020年コロナショックによる下落を経て2021年から資材価格の高騰により物価上昇に拍車がかかっています。また、2022年以降は資材価格の上昇は沈静化しましたが、労務費の上昇により建設工事費の上昇傾向は続いています。

建設コスト変化率の推移

参考元:3. 建設コスト | 建設業の現状 | 日本建設業連合会

 

【材料価格推移】
・建設コストへの影響が大きい鋼材などの建設資材の価格は2021年以降上昇し、2023年後半よりその上昇は沈静化傾向。

建築資材価格の推移

参考元:3. 建設コスト | 建設業の現状 | 日本建設業連合会

 

労務費推移】
労務費は2011年ごろより上昇し2015年以降は沈静化したが、2022年後半より上昇傾向に。継続的に労務事情がひっ迫している工種もあり、全般的に労務費上昇が進む可能性あり。

【建設投資傾向と建設業就業者数の推移】
・コロナ明けで社会経済活動の正常化が進んだことにより、国内景気が持ち直した事から堅調に推移。一方で、直近5年間の建設就業者数は500万人を切る値で推移しているが微減傾向が続いている。
・建設業就業者の高齢化や人手不足は常態化。2024年問題によって工期の延⾧や労務費の上昇を促す国や建設業界団体の働きかけが一段と強まっている。

【資材等の価格改定状況】
・建材及び設備資材について、2021年以降で価格改定が各種の建材や設備資機材メーカーで実施され、複数回の価格改定が行われている事例もあり。

◆資材等の価格高騰への建設業界の動き

日本建設業連合会(日建連)は、発注者に向けて「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い」のパンフレットを発行し、現状の理解と協力を求めています。
1.直近の資材価格や調達状況、協力会社の労働者も含めた賃上げを適切に反映した価格・工期での契約締結
2.民間建設工事標準請負契約約款等を活用した契約締結
3.既に締結された契約における資材高騰・賃金上昇に伴う個別協議

(2)労務の課題

◆2024年問題(工期延⾧・コスト高に繋がる課題)

建設業の2024年問題とは
・2024年4月1日から、働き方改革関連法に基づく時間外労働時間の上限規制が建設業に適用され、時間外労働を原則月45時間以内かつ年360時間以内に抑えることが義務付けられます。
•日建連が2023年7月21日に公表した報告書によると、会員企業の非管理職の半数近くが2022年度では年360時間を超える時間外労働に従事しているとの事。別の調査によると、2022年度に4週8閉所を達成した建築工事の現場は30.8%との事で、2024年問題・働き方改革関連法遵守のために各ゼネコンとも会社取り組む姿勢を見せてきています。

私が関わる案件でも、ゼネコンは工事見積や工程計画の前提条件として4週8閉所を明記して提示しています。

◆人手不足問題(労務費の上昇、受注余力低下の課題)

建設業の人手不足問題の背景(1):増えない建設技能者
・建設技能者の慢性的な人手不足は、国土交通省発表の全国8職種建設技能労働者過不足率調査に反映されており、2011年以降、常に不足側で推移し、建設需要に対して技能労働者の供給が追い付いていない状況です。
・2011年以降の建設業への入職者・離職者の動向に目を向けると、年間の入職者数と離職者数はほぼ同数で推移しており、増えていない状況です。これが慢性的な建設技能者供給不足の直接的原因と言えます。
(※8職種:型わく工(土木)、型わく工(建築)、左官、とび工、鉄筋工(土木)、鉄筋工(建築)、電工、配管工)

建設業の人手不足問題の背景(2):建設技能者の高齢化
・建設技能者の高齢化も深刻な課題であり、総務省労働力調査によると2022年の建設業の55歳以上の就業者比率は全産業の中でも極めて高く35.9%となっており、29歳以下の11.7%との開きは、年々拡大する傾向にあります。
・国内の全産業中に占める建設業就業者の比率も年々低下しており、2007年には8.6%でしたが2022年には7.1%まで減少しており、この傾向は今後も継続することが予測され、いかにして若年層の建設業への入職者を増やせるかが業界全体の喫緊の課題となっています。

建設業の人手不足問題の背景(3):敬遠される労働環境
・建設業の労働賃金は⾧年に亘り、他の産業との比較において低い水準で推移していましたが、2016年以降は、全産業または製造業の賃金水準を上回っており、他の産業に引けを取らなくなってきています。
・2022年の年間労働時間においては、建設業の1,986時間とその他の産業の年間労働時間1,718時間との格差は15%以上あり、年間出勤日数240日もその他の産業の211日との格差が13.7%と大きく、建設業の慢性的な⾧時間労働環境が建設業への入職の障壁となっている事は間違いなく、その改善が大きな課題となっています。

建設技能労働者過不足率の推移(8職種計・全国)(令和5年12月調査)

参考元:建設労働需給調査

建設業界に求められる対応策

日本建設業連合会は、資材価格や労働者の賃上げを適切に反映した価格・工期での契約締結を推奨しています。また、建設業界では、人手不足問題の解消、建設技能者の高齢化対策、そして労働環境の改善に向けた取り組みが急務とされています。特に、人手不足の解消や建設技能者の高齢化を改善するため、若年層の建設業への入職促進や労働環境の改善に取り組む必要があります。

業界全体でこれらの課題に対応し、建設プロジェクトの品質維持と効率的な業務遂行を目指す必要があります。

プロジェクト運営において建設業界の課題に対処する方法についての考察

現在の建設プロジェクトの成功は、ゼネコン選定の戦略、コスト管理、品質保持の三つの柱に依存していると考えます。

それぞれの建築プロジェクトにおいては、建築業界の改善を待つまでもなく推進していかなければなりません。

建設プロジェクトの立ち上げ時点からゼネコンの選定戦略を考え、プロジェクトのスケジュールや予算の計画をしていく必要があると考えます。

プロジェクトの川上から現在の課題への対処を考えて行くために、クライアントの立場から第三者的な視点でプロジェクトをサポートする事が出来る、経験豊富な建築プロジェクトマネージャーやコンストラクションマネージャーを採用するのは一つの対処策であると考えます。

 

また、私としては建築業界の魅力向上に何らかの形で寄与したり、若い世代に建築業界に興味を持っていただける様な情報発信を行ってゆきたいと考えています。

クライアントより立場が上のゼネコン

クライアントより立場が上の状況になっているゼネコン営業マン(画像生成AIによる作画)